ファイナンシャルプランナー大森信侍の日記

ファイナンシャルプランナー 大森 信侍(おおもり しんじ)がお金に関する事をつづる日記です。

「就活ルール」は無駄と言い切れないくつかの理由

投資戦略ではとても参考になる記事を書かれる、経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元氏の以下の記事について、思うところ有り、意見します。

headlines.yahoo.co.jp

論旨として捉えるに、

いわゆる「就活ルール」は(誰が決めるにしろ)ない方がいい。理由は以下の三つ

  1. 採用・就職は自由であるべき意思決定だ
  2. 学業と就活時期は本来無関係だ
  3. 「守られないルール」の悪影響

といったところかと。

意見したい大きな点は、「典型的就活以外の就職活動」への目配せが見られない事にあります。いか論旨ごとに書いていきます。

  • 採用・就職は自由であるべき意思決定だ

→公務員試験の影響は無視できないし、内定早期化で拘束コストが問題になることも

 

いわゆる「就活」以外の就職活動で、内定から雇用までの猶予期間が最大1年もらえることは有りえません。本来予算があるのに執行できない状況をよしとする企業はないでしょう。猶予がある理由として、公務員試験との競合が挙げられます。「就活」と異なり、一斉試験の一発勝負がルールで、両天秤にかける新卒生は多いですから、無視できないし、「就活ルール」の実効性を担保していたのではないでしょうか。また、青田買いが進めば、猶予期間の無駄が企業側で問題視されて、内定が事実上取り消し可能な約束になり、新卒者がキャンセル不可内定を求めるといった堂々巡りも想定されます。

 

  • 学業と就活時期は本来無関係だ

→「就活」コストが影響している可能性あり、企業が学校を信頼しないことが問題

 

「就活」で学生が負担するコストに頓着していないだけの意見に聞こえる。「就活ルール」は新卒者と企業のマッチングコストのうち、時間については期限を切ることで減らしている。学部専攻不問の求人が大多数の「就活」で、就活のオンライン化で応募先も多数となる状況では、活動期間ぐらいは切らないと散漫な活動になり内定が決まらなくなる可能性も有る。企業も通年対応するなら、出揃わなくなる応募者からの採用水準を維持するコストは増えざるを得ない。結局「就活」コスト負担の問題でしかないのではなかろうか。勉強しない内定生を指して、内定が出たから勉強しないと因果関係を結びがちだが、内定とは無関係では無いか。どちらかというと、企業の学校に対する信頼の低さが問題ではないか。自動車免許試験の得点を気にしない人がほとんどであるように、大卒は資格でしかなく、人物評定、能力評定に使わないし、使えないと新卒者、企業ともに見なしていると考えればすっきりする。理系にはある研究室推薦での内定者は研究者と企業間の信頼があるから学業に手を抜かないのだろう。

 

  • 「守られないルール」の悪影響

→抜け駆けを問題視するより、新卒就職率の高さへの貢献の評価を

 

「就活ルール」のせいで抜け駆けがあるから、ルールを無くそうはそもそも乱暴な対応だろう。一部の企業の紳士協定でしかない「就活ルール」であるが、失われる影響はそれなりに大きいだろう。先に述べたように「内定から雇用までの猶予期間」が長いのは「就活ルール」(と公務員選考との競合)が前提であり、「就活ルール」廃止で「内定から雇用までの猶予期間」が短くなるのを学生は歓迎しないだろう。

そして、「内定から雇用までの猶予期間」にはもう一つの機能がある。中小企業の採用を集中させることによる新卒者の全員就職を後押しする機能だ。大企業と中小企業は明確に優劣がある。就職において中小企業を選ぶ事は不利な決断だ。期限を切られなければ、決断できない学生が多く出てしまうのでは無いか。

 

あと、「就活ルール」を誰が決めるべきですが、公務員試験日程を管理する政府が目安をアナウンスするべきと考えます。新卒者の就職率が低下した場合責任を取らされるのが政府である現実から見て妥当でしょう。

 

以上です。

個人的にはHRテックで就活コストを下げることが王道の解決策な気がしています。あと、みんな制度の相互作用にもっと感心を持とうよと社会学部卒のFPは思うのでした。